里山の家
集落といっても3世帯しかない敷地。住まい手は嘉永元年(1848年)に開墾された棚田を守るため、住まい手はアイガモ農法に取組み、野菜を作り、家畜を育てる複合型の経営を職業とされています。その住まい手が早朝より働き、日中のわずかな休憩と寝食の時間を快適に過ごし、仕事を終えたら翌日のために心身ともに体を休めることができるような住まいとして計画しました。住まい手とはスケッチのやり取りで、どんな空間にするかを打合せし、イメージの共有を積み重ねていき、最終案としてくの字に曲がった空間に辿り着きました。
構造計画上は難しいかたちとなりましたが、これまでに設計してきた曲がり屋や木質ラーメン構造の経験を活かし、できるだけ開放的になるよう、そして機能的だけど情緒的な空間となるよう構造家とともに検討を重ね、何より住まい手の希望であった木造では難しい連続窓を実現することができました。この窓から眺める風景は四季折々のパノラマの景観を楽しませてくれます。囲まれ感のある落ち着いた寝室、家事が効率よくできるように計画された水廻りのほか、利用方法の曖昧なロフト空間をつくり、お子さんの成長に合わせ住まいの使い方を変化させて暮らせる、使い勝手の良い住まいの思想は外部空間にもつながっています。玄関ポーチに大きな連続する屋根をつくり、雨の日の作業場として、晴れの日には心地良い休憩スペースとして利用できるようにしています。ポーチの一角には勝手口を設け、農作業などで汚れたときの出入りや、隣に設けた家事スペースでの洗濯や乾燥がスムーズに行え、季節、天候にあわせて生活できるような場所になっています。
2019年富山県建築文化賞
雑誌掲載:「住む」71号 2019年[秋]、「まんまる」2020年10月(197号)、conocoto