湯崎野の家
築70年を超えた住まいを建て替えました。遡ること13年、当時40年ほど経過していた部分を私たちの手で耐震断熱改修しました。その間、ご家族の構成などに変化があり、仏間を中心とした残りの部分にも手を入れようと調査したところ、基礎などの状態が思いのほか良くなかったため、思い切って建て替えを選択することになりました。
新しい住まいの空間構成をどうするかに加え、少し前に更新したばかりの機器を廃棄せずに再利用することや、住み継いできた部分の記憶をどう継承していくかなどを、住まい手と丁寧に解決しながら導き出した回答は、元の住まいに比較的近いプランで、そこに欄間などの「以前の記憶」を移設するという案でした。元の住まいに近いといっても同じ間取りということではなく、全く異なるのに何かしら面影があって、初めてだけど懐かしいと感じるような空間を目指しました。
そこで、住まいを「普段使いの空間」と「来客時に使用する空間」に大きく分類し、普段使いの空間は明るくかしこまらないような空間、来客時に使用する空間は新しさを感じない年月を感じるような空間となるよう計画しました。廊下には先代が残された書籍等を収納するための本棚を設け、この家に集う高齢になられたご家族が本棚を手摺代わりに利用できるように配慮しています。また、普段はあまり利用しない宿泊を目的とした部屋は2階に設け、普段はサンルームとしての利用や、暑い季節に排熱するための経路として利用しています。他にも住まい手のために設えた工夫が随所にみられる空間を長く住み継いでいただけることを願っています。