125 住まいをつくる時間

写真は昨年の10月に「ラウベ小矢部」のオープンハウスで展示した白い家」の模型です。その後、ヤマハリビングテックさんに会場をお借りして開催された「AnT Cafe 2nd」でも展示していましたので、ご覧になられた方があるかもしれませんね。1/50のスケールで作っていますので、内部の棚や家具なども細かく表現されています。余談ですが、設計の世界に足を踏み入れて初めてする作業。その殆どが模型づくりかもしれません。私もそうでした。今思えば学生時代には数えきれないくらいの模型を作りました。そうやって、空間力を高めて行ったのだと思います。

家を建てること。それは住まい手にとっては、一生に一度の大仕事であり、大きな買い物でもあることは間違いありません。そして私たち設計者がいつも肝に銘じ、忘れてはならないこととは、家は買うものではないこと。そして住まい手が準備するお金の大切さです。住まいづくりは宝くじでも当たらない限り、そう何度もできる経験ではありません。だから住まい手とじっくりと時間をかけ、一緒に考えていきたいと思っています。限られた費用の中で、どこにどれだけの費用を費やすか。住まい手の皆さんと一緒に悩み、納得頂けたらようやく次のステップに移ることができるのです。
通常の場合、私たちは設計のお話しを頂いてから住まいが完成するまで、おおよそ1年の期間をかけています。そのうち最初の半年を図面作成に、そして残りの半年を工事と監理に充てています。ではなぜ図面作製に半年も要するのか。その答えは簡単で、住まい手にじっくりと考えて欲しいからです。図面をお見せして2週間はじっくり考えて頂きます。前の日にはいいと思ったことが、次の日にはやっぱりこっちがいい・・・なんてことがありますよね。一時的な想いだけで進むと、あとで後悔することになりかねません。これから何十年と住んでいく器だからこそ、そして大切なお金をかける空間だからこそじっくり考えて頂きたいのです。
設計を依頼されてから図面作製にかかる半年は、住まい手と私たちはとても密な関係になります。私たちは、ずっと提案することを考えていますし、住まい手は(多くの場合が慣れない図面の読解に苦労しながら)提案された空間が良いかどうか悩まれています。そういった時のために(理解を早めるため)冒頭にあるような模型を制作し、持ち帰って頂き、じっくり考えてもらいます。時には半年以上が必要になることもあります。それはプラン決定までに何度もかかる場合や、途中から住まい手の考え方そのものが変わる場合もあります。初めてお会いして、すぐに住まい手の想いを聞けるとは限らないのです。やはり最初は緊張されるでしょうし、秘密にしておきたいこともあるかもしれません。打合せを繰り返すごとに、「実は…」ということもあります。要は、しゃべるきっかけも必要なのです。中には即決できる方もいらっしゃいます。でも、その配偶者は悩む方だったりします。意外とこんなところでも夫婦の帳尻があっているのでしょうね。私たちも、一方が悩めばもう一方が即決するなんてことの繰り返しです。まぁ、大体の場合は私の方が悩みこむのですが。ちなみに私たちの自宅は、とても簡単なプランにもかかわらず設計に2年もかかってしまいました。
こういった作業の積み重ねですから、半年(場合によってはそれ以上ですが)という期間は長いようで短く感じられることのほうが多いようです。ある住まい手からは、「友人の家に遊びに行ったような感じで、お二人と楽しく話をしていたら図面が出来ていた。」なんて嬉しい言葉を頂きました。その言葉が示す通り、しんどい中にも楽しい時間を過ごされることになります。その濃密な時間は、いつまでも住まい手の記憶に残ります。子供たちの記憶にも。そして図面が完成してからの半年。こちらは実際に住まいを造る時間です。住まい手は工事過程を楽しく見守って頂く期間になります。それでも外壁の色やカーテンなど備品の仕様など、細々とした打合せが沢山あります。案外こちらはこちらで随分悩まれる方の方がが多いようです。ご夫婦で意見が合わない場合もチラホラ。。。
こんな感じで笑いあり涙ありの1年が過ぎて行きます。雪が降る北陸ならではなのか、12~3月にかけて住まいの相談や設計の依頼を受けることが多いようです。それは、年末を新しい住まいで過ごしたいという想いや、子供たちの学校の都合で春までに入居したいなど理由は様々ですが、案外ギリギリになってから相談に来られる場合が多いようです。冒頭にも書きましたが、一生に一度の大仕事です。これから住まいづくりを考えておられる方は、じっくり考えるためにも余裕を持ってスタートして下さい。(A)