舞多聞の家

森を通り抜けて家に入りたい・・・。住まい手から与えられた一番の希望を胸に訪れた敷地は、立木の少ないゴルフ場跡地に開発された広大な住宅地でした。この宅地は造成の際に単年度の計画ではなく、長い時間をかけて美しいまちなみを整えていくような計画のもとに整備されましたが、段階的に造成中で何もない3mを超える高低差のある場所でした。その後、打ち合わせごとに幾度となく通い、高低差のある敷地から見える風景を丹念に読み解き、傾斜なりに住まいを計画することを提案し、階段状に床がつながるスキップフロアの住まいを提案することに辿り着きました。

一般的には段差が多いことから感じる抵抗感や、バリアフリーという単語が独り歩きして「段差は良くないもの」という見方が広まった視界からは敬遠されがちなスキップフロアの計画ですが、階層ごとをつなぐ階段の段数が少ないことから、通常の2階建てよりも各々の空間が近付き、その分だけ家族の距離も近くなります。そして何より空間の広がる感覚が何倍にも増えて感じることができます。階段廻りには収納スペースや書斎的なワークスペースを備え、単なる移動の場所ではなく、家族が集まり集う場所として計画しています。
建物は道路から離して計画し、その空間に樹木を植えることで、住まい手の臨むようなアプローチ空間と森に囲まれた住まいを実現しました。おのおのの部屋での過ごす時間が、窓越しに見える樹木や景色とともに積み重ねられ、暮らしを豊かにしてくれることでしょう。

WEBマガジン掲載:homify